メメント?モメント♪ルルルルル☆ の考察

 

曲名:メメント?モメント♪ルルルルル☆

作詞 松井洋平

作曲 宮崎まゆ

歌    タウラス(春日未来  徳川まつり  宮尾美也)

 

《ストーリー概略》

ある少女が記憶喪失してしまう。これにより日常のあらゆることが新鮮な初体験となった少女は、記憶の過去の趣味を追体験したり、ありふれた街並に感動したり、新たな出会いがあったり…。

 

 

 

ここから読むにあたって、曲を聴いたことがない人はまずは聴いてみることをお勧めする。youtubeで試聴できるので聴いてみて、気に入ったら是非買って欲しい。ここからは買って聴いた方向けの内容である。

 ▼試聴

 https://youtu.be/MGWI4yjNs0U

 

《感想》

私はこの曲を聴くと必ず涙が出る。

元々ストーリー系の曲に弱いのだが、この曲はストライクゾーンのど真ん中をぶち抜いた。

 

この曲では、「当たり前」の幸せを記憶喪失を媒介として「特別」に味わう少女がイキイキと描かれている。もうこの幸福感だけで泣けてくるが、この曲はラスサビで超級の一撃を喰らわせてくる。私を一発KOしたのは

君との出会いって何度目だったっけ?

の歌詞である。

ここまでのストーリー展開には一切登場しなかった「君」がここで初めて登場するのだ。

今までに記憶喪失ものやループものを見た・聴いたことがある人ならば  「あっ…」となるはずだ。なぜなら、【恋愛×記憶喪失】の殺人的相性を十分に理解しているからである。2人で積み重ねた思い出が片方だけ抜け落ちる切なさ、残された方の遣る瀬無さ、忘れた方の無邪気さ、残酷さ、儚さ。

ああ、少女は「君」を忘れてしまったのだ…そして「初めまして」と他人行儀な挨拶をしてしまうのだ…そして「君」はどうしようもない虚無感に襲われ涙するのだ…

この鬱屈な憶測がまず第1波である。

そしてこの百発百中に思われた憶測は外れる。

 

「こんなに嬉しいことをもいちどプレイバックできるなんてラッキーです!」

 

続く歌詞がこれだ。初めて聴いた時、正直なところ、最初は困惑し、感動するまでは至らなかった。予想していた展開と違う。そう思った。だがよくよく考えてみると自分の予想が甘かったことに気づく。

この曲は終始一人称であるから、世にある大半の記憶喪失・ループものとは立場が逆なのだ。『ドグラマグラ』『奇跡の人』なんかは一人称記憶喪失ものと言えるが、他にはあまり思いつかない。とにかく、私たちは主人公が記憶喪失しているパターンに馴染みがないのだ。ここで予測の甘さ、もとい仕組まれた予測不可能性に気付かされる。そもそも記憶喪失した人間が悲しみを抱くことはできないのだから、憂うような歌詞が続くはずがないのだ。

さらに、この曲にはもう一つトリックがある。それは先述の第1波だ。アップテンポで明るいメロディラインと弾むような歌声。曲から受ける第一印象から切ない結末を予測することは本来できないはず。それがどうだろう。第1波における反射的な憶測によって、眩いほど明るかったはずの雰囲気に暗雲が立ち込める。そして私たちはまんまとその暗雲の中を彷徨うことになり、たったの1秒足らずで先ほどまでの明るい雰囲気を忘れてしまうのだ。永遠にも思えるような一瞬ではあるが、私にはこの一瞬の隙が非常に大きく作用した。直後に続くこのポジティブ極まり無い歌詞に脳が追いつかないのである。明から暗へ、暗から明へと感覚を振り回され、即座に理解することができない。

そして最後に「Tell Me! What's My Name?Call My Name!Please...!」と、少女が自分の名前を思い出せていなかった事実を告げられるが私の脳はそれどころではない。なにも手に付かぬまま曲は終わる。

 

 

聴き終え、暫しの沈黙。

 

気づくと涙が出ていた。

同時に感嘆の溜め息が出た。

 

多くの記憶喪失ものの「記憶喪失者の悲しい無邪気さ」を踏まえた感動。そしてそれをポジティブに捉える健気さ。いや、健気とは少し違う。天性の楽観的性格と言うべきか。少女はこの虚しい状況を虚しいと思っていない。寧ろ心から喜び、楽しんでいるのだ。

切なくないことの切なさ。

完全に上を行かれたと感じた。

 

 

さらに、落ち着いてから何度もリピートするうちに気づいたことがある。

件の「何度めだったっけ?」や「記憶って、思い出って、ループしたってOK」などの歌詞、これは少女が3回以上の記憶喪失を記憶していないと出てこない台詞なのだ。朝起きたら脳の一部が機能せず、「君」や日常に関する記憶は抜け落ちてしまったものの、物の道理や言語に関する脳は至って健常。「過去に記憶喪失した」という事実は後者の脳に含まれる。ご都合主義的ではあるがこれで矛盾はない。

この「過去の記憶喪失の記憶」は物語を紐解く上で肝要な点である。先に書いた「切なくないことの切なさ」の意味が変わってくるのだ。

 

まず、私たちが知っている記憶喪失ものでは、記憶喪失者は一般人に変質するのが通例だ。「あの…どなた様ですか?」に象徴されるパターンと言えばわかりやすいだろうか。私はこういうのにも弱いのでこの台詞だけでもう泣けてくる。2人の思い出が共有できなくなる悲しさ、遣る瀬無さ。切なく涙腺にクる展開。

 

一方、この曲における記憶喪失者、少女はそうではない。確かに「君」に感情移入して聴いてみると同様の感覚を得られるが、「君」はこの曲の最後の最後に出てくるため感情移入が難しい。多くの人は少女に感情移入するか、客観的に聞くかであろう。その少女は「君」との出会いを何度も繰り返し、その度に幸せを感じる。何度記憶が消えようと同じ人と出会い、同じ人を好きになる少女。この切なさは先のそれとは違う。胸が締め付けられるような純愛、青春の切なさである。

 

 

私は心底驚いた。

「君」登場までの全ては少女の気質や記憶喪失への接し方を表すサブ要素であったらしいのだ。歌詞は疎か明るい曲調までもが大どんでん返しの下拵え、言うなれば『導火線』で、最後に「君」という『火』が点けられる。最後の一行までの全てが伏線で、最後の一行で全ての伏線を一挙に回収されたような、そんな心地だ。非常に難解で技巧的な曲構成だと感心する他ない。そしてこの『爆発』は一度流し聴きするだけでは決して理解できず、感じ取ることすらできないかも知れない。だがしかし、ただ明るい記憶喪失の少女の歌とするにはあまりに勿体無い。

 

 

 

 

 

 

つまり
メメント?モメント♪ルルルルル☆」は

記憶喪失を媒介とした

非常に高度な恋愛曲だったわけである。

 

 

 

最後に。

Tell Me! What's My Name? Call My Name! ....Please!

「私の名前なんだっけ?教えて!!私の名前を呼んで!…お願い!」

記憶喪失を口実に「君」に名前を呼んでもらう少女とも解釈できないだろうか。

これは、恋の駆け引きなのだ。

 

 

 

 

※あくまで個人的意見ですので悪しからず